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『意志力』理想の人生を
​生きるのに欠かせない力

皆さんは「意志力」とは何かご存じですか?

「意志」という言葉なら、「あの人は意志が強い」「私は意志が弱いから…」といった使い方で耳にしたことがあると思いますが、その「意志」とは具体的にどのようなものでしょうか?

のどか保育園で育成に力を入れている非認知能力(参考:『非認知能力について』)については以前からいくつかのコラムの中でも紹介してきましたが、今回挙げる「意志力」も、その非認知能力のうちの一つ。これからの時代を生き抜くために必要な力とされています。

意志力=「やる力」「やらない力」「望む力」

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意志力とは、一言で言うと、「自分をコントロールして、目的達成のために実行する力」のこと。自分の感情や欲望を自制し、理想を叶えたり才能を伸ばして活かしたりすることができるようになるには、この意志力が欠かせません。

​そして、その力は、学校やクラスのルールを守ったり、席に座って教師の話を聞き授業に取り組むといった場面の増える小学校への入学前に身につけておきたいものといわれています。つまり、乳幼児期に育むのが理想とされる能力なのです。

そんな意志力は、「やる力」「やらない力」「望む力」の3つに分けられます。

テスト前の学生に例えると、勉強をするのが「やる力」、ゲームや漫画などの娯楽を断つのが「やらない力」、目標の得点を思い描くのが「望む力」です。(※出典1)

​物事を成し遂げるには、この3つの力を駆使して継続的な努力や練習を重ねることが重要なのです。

​「やらない力」が人生に及ぼす影響

この3つの力の中で最も重要なのが「やらない力」です。これは自己抑制能力でもあり、どれだけ自分をコントロールする力(自制する力)を身につけられるかが大事になってきます。

マシュマロ実験による実証

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「やらない力」が人生にどのような影響を及ぼすかを証明した有名な実験に、1970年に心理学者ウォルター・ミシェルが行った「マシュマロ実験」というものがあります。

被験者は186名の4歳の子ども達。一人ずつ部屋に呼ばれるのですが、そこにはお皿に乗せられたマシュマロが1つ置かれています。そこで、実験者はある約束をして部屋を出ます。

その約束とは、「これから私は部屋を出なければいけません。15分後に戻ってくるけれど、それまでマシュマロを食べずにいられたらもう1つマシュマロをあげます。でも、もしそれを待てずに食べてしまったら、もうマシュマロはあげられません」というものです。

こうして実験者が部屋を出た結果、およそ3分の2の子どもは我慢できずにマシュマロを食べてしまい、残りの3分の1の子どもは15分間食べるのを我慢して2つ目のマシュマロをもらうことができました。ここで働いたのが「やらない力」=マシュマロを食べない力です。

この実験の後、追跡調査が行われました。18年後、子ども達が22歳になった時の学業の成績を調べてみたところ、マシュマロを食べてしまったグループより、我慢できたグループのほうが成績優秀者が多かったのです。

さらに、その23年後、子ども達が45歳になった時には、我慢できたグループのほうが社会経済的地位も高いという結果が出ました。つまり、成功者が多かったのです。

こうして、目先の欲望を自制し、長期的な利益を考えて行動できる人間のほうが人生で成功しやすいということが分かりました。

​そして、子どもが自分をコントロールして「やらない力」を発揮できるという資質は、大人になっても継続していくものなのです。(※出典2)

​イヤイヤ期は意志の育ちの表れかも!?

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乳幼児教育において、3歳というのは重要なポイントになります。

園長が日本モンテッソーリ協会モンテッソーリ教師ディプロマの資格を保有している当園では、以前から積極的にモンテッソーリの教具を取り入れるなどして保育に役立ててきました。

このモンテッソーリ教育でも、“意志の育ち”の期間として変化の大きい乳幼児期を3歳くらいで2つに分け、前半の0~3歳を『吸収する精神(無意識)』の時期、後半の3~6歳を『意識の芽生えの時期』と呼んでいます。そして、この2つでは物事の学習方法に違いがあります。(※出典3)​​

​●0~3歳 吸収する精神の時期

『吸収する精神』の時期の子どもは、文字どおりあらゆることを吸収していきます。手に取ったものを舐めたり触ったりといった学習方法を無意識に行っているのが0~3歳児なのです。

​●3~6歳 意識の芽生えの時期

『意識の芽生えの時期』の子どもは、さまざまな活動を通して意識的に学習をしていきます。上手にできるようになりたい、もっとたくさん知りたいといった気持ちを自主的に持って物事に取り組んでいるのです。

上記2つは、急に切り替わるものではありません。無意識から意識的へ、発達とともに少しずつ移行していきます。この境目というのが、3歳前後。よく「イヤイヤ期」と呼ばれる時期にちょうど当てはまります。

この頃の子ども達は、「こうしたい!」という意志が育ち始めてもどうしたらいいのか分からず、葛藤やもどかしい気持ちを抱えています。それが、あれもこれも「イヤ!」と言って大人の言うことを聞いてくれないという状態を引き起こしている原因でもあるのです。

大人は、頭ごなしに叱ったり無理に言うことを聞かせようとするのではなく、子どもが葛藤しながら意志の育ちの時期を迎えているのだということを知り、よく理解して接してあげたいものですね。

​意志力は鍛えることができる!

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マシュマロ実験の話に戻りますが、「やらない力」を発揮して、その後成功をおさめた子ども以外の「やらない力」があまり備わっていない子どもは、諦めるしかないのでしょうか?

答えは“NO”です。「やらない力」に「やる力」と「望む力」を含めた『意志力』は鍛えて伸ばすことができます。

​その方法について、普段ののどか保育園での保育を交えてご紹介します。

子どもの感情を言葉にして共感する

幼児期の子どもは、自分の感情を言葉で説明することがまだ上手ではありません。そのため、嫌なことがあった時や子ども同士でトラブルが起きた時などは感情が先立ち、自制をするのが難しいものです。

そんな時は、保育者がそれぞれの子どもの思いを受け止めてあげる必要があります。「○○が嫌だったんだね」「一緒に遊びたかったんだね」などのように、子どもの気持ちを代弁して共感してあげることで、子どもも自分の気持ちを理解してもらえるのだと安心できるようになります。さらに、自分が今後どのように気持ちを表現すればいいのかを学ぶこともできます。

そうしていくうちに、自分をコントロールする力がついていくのです。(※出典1)

子どもの意志を尊重する

子どもの意志を尊重するといっても、甘やかして子どもの言いなりになるということではありません。

さて、以下の2つのうち、どちらが子どもの意志を尊重しているでしょうか?

園でトイレに行く時。

①「トイレに行きますよー」と言いながら保育者が子どもの手を引いたり抱き上げたりして強制的に連れて行く。

②「トイレに行こうね」と言って手を差し出したり、そっと手を取って子どもの自主性に任せて一緒に行く。

答えは②です。①は大人の意志を感じ、半ば強制的に連れて行っています。“一緒に行く”のとは大きな違いがありますね。(※出典4)

​このように、園生活の中で保育者が子どもをサポートし、意志を尊重することで、子どもは自ら決定し、生きる力を学んでいくのです。

ルール上に自由を与える

例えば「自由な社会」と聞くと、ルールのない社会をイメージする方も少なくないのではないでしょうか。それは、一見窮屈さがなくてとても良い社会に思えますが、実際は無秩序で、自分でルールを決めなければならず、かえって不自由さを感じるものだといわれています。

子どもが意志力を鍛えるためには、大人が決めた枠組み(ルール)が必要です。とりわけ安全にかかわることや、衛生面、公共のマナーは「やるべきことはやる、だめなものはだめ」ということを決め、良い習慣がつくように徹底しなければなりません。また、遊びの中でのルールや、給食時間のルールなど、守るべきルールはきちんと定める必要があります。

​そういったルールを守ることで子どもの自制心や責任感が育ち、さらにその中で自由にさせることで、それぞれの子どもらしい自我が育まれるのです。(※出典1)

​この時、保育者が気を付けていることは、子どもに盲目的な服従を強いないということです。子どものニーズに応えずただ言うことを聞かせるだけでは、子どもの自主性や意志力を奪ってしまいます。やはり、ここでも子どもの意志を尊重することが求められているのです。

​意志力には回復が必要

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子どもに意志力がついたら、これでもう万々歳!…といきたいところですが、注意したい点があります。それは、意志力というものには限りがあり、使えば使うほど脳が疲労し、減ってしまうということです。

​意志力が減って弱まると、刺激を強く感じて自我が消耗してしまったり、誘惑に負けやすくなり自己コントロールができなくなってしまったりするといわれています。体を動かした後に休息が必要なように、意志力を使った後の脳にも休息が必要不可欠なのです。

睡眠で意志力の回復を

以前睡眠についてのコラムでもお話ししましたが(参照:「寝る子は育つ!睡眠の大切さとのどか保育園の工夫」)、消耗した意志力の回復には規則正しい睡眠が欠かせません。睡眠不足だと脳はエネルギー不足になり、脳の各領域の連携がスムーズに行われず、自制心が働きにくくなり、意志力も低下してしまいます。そうならないためにも早寝を心がけ、十分な睡眠をとりましょう。(※出典1)

​大人もしっかりとした意志力を

子どもの意志力を育むためには、まず親や保育者といった身近な大人がしっかりとした意志力を持つことが大切です。子育てや保育においては、大人の意志力が試される場面が度々あります。大人も人間ですから、意志力を消耗してしまうこともあるでしょう。そんな時には、子ども同様しっかりと脳に給食と栄養を与え、意志を強く持ち、日々の子育てや保育に励んでいけると良いですね。

【出典】

1:中内玲子(2020年)『シリコンバレー式 世界一の子育て』フローラル出版

2:東洋経済ONLINE「我慢弱い子ほど「高収入・高学歴」に縁遠い理由 「マシュマロ実験」が明らかにした衝撃事実」https://toyokeizai.net/articles/-/311557(参照2024-6-21)

3:モンテッソーリほいくのたね「“3歳は意志の育ちの中間地点”イヤイヤ期と言われちゃう理由の一つなのです」https://montessori-hoikunotane.com/3sai-iyaiyaki/(参照2024-6-21)

4:モンテッソーリほいくのたね「「子どもの意志を尊重する」とは一体どういうこと??」https://montessori-hoikunotane.com/kodomono_isi_otonanokakawari/(参照2024-6-21)

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